【医師が解説】ダーマペンでアトピー肌が改善?エクソソームとの相乗効果について
本コラムの内容は「エクソソーム」でアトピー肌を完治できると「断言」するものではありません。あくまで治療可能性について言及した内容になります。
「ダーマペンが良いって聞くけど、アトピー肌でもキレイになるのかな?」
「そもそも、アトピーでもダーマペンってできる?」
「ダーマペンとエクソソームで肌質改善ができるって聞いたけど、アトピーの肌も改善できる?」
こんにちは、スマートスキンクリニックの医師です。
皆さんはこんな疑問を持っていませんか?
アトピーの方は、赤み、乾燥、湿疹、痒みをはじめとする症状や、アトピーで生じる肌のざらつきや色素沈着など、常に肌悩みを抱えていることでしょう。
しかし、そんな肌悩みをどうにかしたいと思いながらも、肌が敏感で化粧品やいろいろな施術を受けるのを躊躇してしまう…そんなジレンマを抱えているのではないでしょうか。
現在の医療では、アトピーに対しては内服薬やステロイド軟膏を用いた対症療法が主流とされています。しかし、近年では再生医療のエクソソームを用いることで、アトピーの肌質そのものが改善できるかもしれないという報告がされています。
この記事では、医師の立場から医学的な根拠をふまえて、ダーマペンという施術とエクソソームを併用することでアトピー肌が改善される仕組みをわかりやすく解説します。
アトピーでもダーマペンを受けられる?
結論から述べますと、アトピーの方でもダーマペンの施術を受けることはできます。しかし、少なくとも施術部位にあるアトピーは安定期であることが前提となります。
つまり、
・アトピーが安定期にある場合は、ダーマペンが受けられる
・アトピーが活動期にある場合は、ダーマペンが受けられない
ということになります。
アトピーの方なら安定期・活動期の肌状態について感覚的に分かるかもしれませんが、具体的な肌状態を以下に記載致します。
・皮膚の赤み・腫れが少ない、または全くない
・乾燥やひび割れが軽減している
・かゆみが軽減しており、夜間もほとんどかゆみで目が覚めない
・新たな発疹が出現していない
・皮膚が赤く腫れている
・発疹や水疱が多く見られる
・強いかゆみがあり、特に夜間に悪化することが多い
・皮膚の乾燥やひび割れが顕著
・潰瘍やびらんが見られることがある
・感染の兆候(例:黄色い膿、痛み、熱感)がある
そもそもダーマペンは、極細の針を肌に刺し意図的に傷を付けるという施術です。
健康な肌に施術する場合は、肌に本来から備わっている傷を治すという再生の力を促し、肌質を改善させることが期待できます。しかし、アトピーの活動期にある肌は特に敏感でバリア機能も低下しているために、新たな感染・炎症・ダメージを広げ、アトピー症状の増悪や拡大のリスクを高めてしまいます。
最終的に、アトピー性皮膚炎の「安定期」や「活動期」の判断、またはダーマペンが施術できるかどうかについては、医師の専門的な判断に基づいて行われます。
自分の場合はどうなのかなと、心配になる場合は是非クリニックに相談してみてくださいね。
ダーマペンとエクソソームの併用でアトピー肌が改善する可能性がある理由
ここからは、ダーマペンとエクソソームを併用することで、アトピー肌が改善する可能性がある理由を医学的根拠とともに解説したいと思います。
みなさんは、エクソソームがどのようなものかご存じですか?
まず基本となる知識としてエクソソームについて簡単に説明しますね。
幹細胞から分泌される袋状の物質で、細胞間の情報伝達をする役割を持っています。
エクソソーム自体は小さな袋状の造りになっていて、その中には多様な物質が含まれています。
それらの物質とはRNA、タンパク質、成長因子、サイトカインやケモカインといった炎症や免疫を調整する物質などで、これらの物質を通じて細胞間で情報のやり取りをしています。
エクソソームは、情報伝達物質を通じて他の細胞に働きかけるという役割を持っています。
ダーマペンとエクソソームの併用でアトピー肌は改善する?
結論から述べますと、アトピー肌は改善する可能性があります。
理由は、ダーマペンを用いることでアトピー肌の改善に有効なエクソソームを肌の奥深くに直接届けることができるからです。
アトピー肌が改善する可能性がある3つの理由
なぜアトピー肌の改善にエクソソームが有効である可能性があるのか?
それは、エクソソームが以下の3つの作用を持っているからになります。
- 抗炎症作用
- 免疫調整作用
- 組織修復促進作用
それぞれの作用がアトピー肌にどのように作用するのか解説していきます。
根拠となる医学論文も提示しているので、興味のある方は読んでみて下さいね。
①抗炎症作用
先のエクソソームの基本知識でも説明しましたが、エクソソームはサイトカインという物質を含んでいます。このサイトカインは、主に免疫系の働きや炎症の調節などに関わる情報を伝達する役割があります。
サイトカインと一言で言っても様々な種類があり、いくつかの異なる役割別に分けることができます。その役割の1つが「炎症を抑制するサイトカイン(IL-10、TGF-βなど)」です。これらのサイトカインは、過剰な炎症反応を抑え、炎症が慢性化するのを防ぐ役割があります。
アトピーは身体の特定部分の肌に慢性の炎症が起きている状態です。エクソソームのサイトカインを介した抗炎症作用にて、この炎症を抑えることで、アトピー肌を改善させることが期待されます。
このような機序でエクソソームがアトピーを改善させる可能性を示唆する根拠となる医学論文を2つ以下に引用しておきます。
After the skin tissue is damaged, the local inflammatory processes occur, accompanied by changes in the secretion of inflammatory factors. For example, the concentrations of local TNF-α and IL-1β were increased in patients with burns and diabetes, and excessive inflammatory responses may lead to multiple organ failures and even death.[144] Li et al. found that Exos could inhibit the inflammatory responses by reducing the expression of inflammatory factors TNF-α and IL-1β, while promoting the expression of anti-inflammatory factor IL-10. The overexpression of exosomal miR-181c effectively reduced the inflammatory factors secreted by macrophages stimulated by lipopolysaccharide, inhibited the TLR-4 and NF-κB/p65 signaling pathways, and suppressed the inflammation caused by burns.[145] Therefore, Exos may promote skin repair by regulating the inflammatory responses.
(和訳) 皮膚組織が損傷すると、炎症因子の分泌の変化を伴い、局所的な炎症プロセスが発生します。たとえば、火傷や糖尿病の患者では局所の TNF-α と IL-1β の濃度が増加しており、過剰な炎症反応により多臓器不全や死に至る可能性があります。Exos(エクソソーム) は、抗炎症因子 IL-10 の発現を促進しながら、炎症因子 TNF-α および IL-1β の発現を低下させることで炎症反応を抑制できることを発見しました。エキソソーム miR-181c の過剰発現は、リポ多糖によって刺激されたマクロファージによって分泌される炎症因子を効果的に減少させ、TLR-4 および NF-κB/p65 シグナル伝達経路を阻害し、火傷によって引き起こされる炎症を抑制しました。したがって、Exos は炎症反応を調節することによって皮膚の修復を促進する可能性があります。
再生医療への応用を目指したエクソソーム
4.8. Skin Diseases
炎症性疾患におけるエクソソームの治療への応用
Inappropriate responses by cells of the skin immune system can cause chronic skin diseases [129]. Cho et al. reported that EVs from human AD-MSCs decreased serum levels of pro-inflammatory cytokines (IL-4, IL-31, IL-23, and TNF-α) in the NC/Nga mouse model of atopic dermatitis. The serum IgE level and the number of eosinophils also decreased [130]. In another study, AD-MSC-derived EVs showed anti-inflammatory effects in the hairless SKH-1 mouse model in which atopic dermatitis was induced. EVs decreased the levels of IL-4, IL-5, IL-13, TNF-α, IFN-γ, IL-17, IgE, and thymic stromal lymphopoietin [131]. EVs have also been derived from prokaryotic cells, including the probiotic bacterium Lactobacillus plantarum. Recently, such EVs were shown to promote polarization of THP-1 cells to macrophages that have an M2b phenotype in vitro. The EVs also induced secretion of IL-10 by human skin organ cultures, suggesting that Lactobacillus plantarum-derived EVs have therapeutic potential in skin inflammation [132]. Moreover, human BM-MSC- and human jaw BM-MSC-derived EVs promoted M2 polarization of human monocytes in vitro and accelerated cutaneous wound healing in vivo [133].
(和訳) 4.8. 皮膚疾患
皮膚免疫系の細胞による不適切な反応は、慢性皮膚疾患を引き起こす可能性があります。Cho等は、ヒト AD(脂肪細胞)-MSC( 間葉幹細胞 ) からの EV(細胞外小胞≒エクソソーム) が、アトピー性皮膚炎の NC/Nga マウスモデルにおける炎症促進性サイトカイン (IL-4、IL-31、IL-23、および TNF-α) の血清レベルを低下させたことを報告しました。血清 IgE レベルと好酸球の数も減少しました。別の研究では、AD-MSC由来のEV(≒エクソソーム)は、アトピー性皮膚炎を誘発したヘアレスSKH-1マウスモデルにおいて抗炎症効果を示しました。EVは、IL-4、IL-5、IL-13、TNF-α、IFN-γ、IL-17、IgE、および胸腺間質リンホポエチンのレベルを低下させた。EV は、プロバイオティクス細菌であるLactobacillus plantarumを含む原核細胞からも派生しています。最近、このようなEVは、インビトロでTHP-1細胞のM2b表現型を有するマクロファージへの分極を促進することが示された。また、EV はヒトの皮膚器官培養物による IL-10 の分泌も誘導し、Lactobacillus plantarum由来の EV が皮膚炎症における治療可能性を持っていることを示唆している。さらに、ヒトBM-MSCおよびヒト顎BM-MSC由来のEVは、インビトロでヒト単球のM2分極を促進し、インビボで皮膚の創傷治癒を促進した。
②免疫調整作用
アトピー性皮膚炎の背景には、Th2細胞の活性化が影響していると考えられています。Th2細胞はアレルギー反応を促進させるサイトカインを産生して、過剰な免疫応答を生じさせます。
エクソソームは免疫応答を制御する役割を持つTreg細胞などを増加・活性化させることが分かってきました。Treg細胞によって免疫反応が抑制されれば、アトピー性皮膚炎の過剰な免疫応答が鎮静化されると考えられています。
以下の医学論文は、「Tregが免疫反応を調整している」ことを示すものになります。
本研究では、皮膚バリア機能とTregの関係に着目し、界面活性剤(SDS)の反復塗布により皮膚バリア破綻モデルマウスを作製し、その皮膚の解析を行いました。その結果、皮膚バリア破綻処置により表皮が肥厚すると共に、Tregが浸潤していること、さらにこの時Tregは抑制性サイトカインであるIL-10 *5及びTransforming Growth Factor(TGF)- β *6を産生していることがわかりました。
炎症を抑え皮膚の恒常性を維持するメカニズムを解明~皮膚バリアの破綻における制御性T細胞の役割~
—-(中略)—-
以上の結果より、皮膚バリア破綻によりIL-33が表皮角化細胞から放出され、Tregを浸潤集積させることで炎症が起きないように皮膚の恒常性を維持していることが示唆されました。
以下の医学論文は、エクソソームが「Tregを増加・活性化させる」ことを示すものになります。
Exosomes from MDSC has also been shown to carry TGF-β1 which participates in the inhibition of NK-cells [137]. Further research also showed that exosomes from MDSC, in vitro, promoted Treg differentiation and proliferation from CD4+ T cells in the presence of TGF-β and inhibited CD4+ cell proliferation [138]. MDSC exosomes has also been implicated in the suppression of the innate arm of immune system by their ability to polarize macrophages to the type 2 tumor promoting phenotype [139]. While implicated in tumorogenesis primarily, further research may shed light on whether MDSC and their exosome cause immune modulation in non-tumorous setup.
MDSC からのエキソソームは、NK 細胞の阻害に関与する TGF-β1 を運ぶことも示されています。さらなる研究では、MDSC由来のエキソソームが、in vitroで、TGF-βの存在下でCD4+ T細胞からのTreg分化と増殖を促進し、CD4+細胞の増殖を阻害することも示された。MDSC エキソソームは、マクロファージを 2 型腫瘍促進表現型に極性化する能力により、免疫系の自然部門の抑制にも関与しています。主に腫瘍形成に関与していると考えられていますが、さらなる研究により、MDSC とそのエキソソームが非腫瘍環境で免疫調節を引き起こすかどうかが明らかになる可能性があります。
免疫応答の制御と免疫療法のためのエクソソーム
ここまでを簡潔にまとめると、Tregは免疫反応を調整する細胞です。そして、エクソソームはTregを増やすのではないかと言われています。ですので、エクソソーム→Tregを増やす→免疫反応の調整亢進→アトピーの改善、といったプロセスが起こるのではないかと考えられます。
③組織修復促進作用
エクソソームは、幹細胞からの成分(細胞増殖、移動、分化を促進するためのサイトカインや成長因子)をターゲットとする細胞に運ぶ役割を持っています。
この役割は組織修復を促す役割とされ、この特性から再生医療の分野で注目されています。
アトピーでは、肌のバリア機能が低下しており、これが外部の刺激やアレルゲンの侵入を容易にし、さらに炎症を引き起こすという悪循環をもたらします。
エクソソームの組織修復促進の効果によって、ダメージを受けている皮膚の再生が促されると、この悪循環を断ち切ることができ、アトピー肌が改善されると考えられています。
Atopic dermatitis (AD) is a multifactorial, heterogeneous disease associated with epidermal barrier disruption and intense systemic inflammation. Previously, we showed that exosomes derived from human adipose tissue-derived mesenchymal stem cells (ASC-exosomes) attenuate AD-like symptoms by reducing multiple inflammatory cytokine levels. Here, we investigated ASC-exosomes’ effects on skin barrier restoration by analyzing protein and lipid contents. We found that subcutaneous injection of ASC-exosomes in an oxazolone-induced dermatitis model remarkably reduced trans-epidermal water loss, while enhancing stratum corneum (SC) hydration and markedly decreasing the levels of inflammatory cytokines such as IL-4, IL-5, IL-13, TNF-α, IFN-γ, IL-17, and TSLP, all in a dose-dependent manner. Interestingly, ASC-exosomes induced the production of ceramides and dihydroceramides.
(和訳)アトピー性皮膚炎 (AD) は、表皮バリアの破壊と激しい全身性炎症を伴う多因子性の不均一疾患です。以前、我々は、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞由来のエキソソーム(ASC-エキソソーム)が、複数の炎症性サイトカインレベルを低下させることによりAD様症状を軽減することを示しました。ここでは、タンパク質と脂質の含有量を分析することにより、皮膚バリアの修復に対する ASC エキソソームの効果を調査しました。オキサゾロン誘発性皮膚炎モデルにおける ASC エキソソームの皮下注射により、角質層 (SC) の水和が強化され、IL-4、IL-5、 IL-13、TNF-α、IFN-γ、IL-17、および TSLP はすべて用量依存的です。興味深いことに、ASC エキソソームはセラミドとジヒドロセラミドの生成を誘導しました。電子顕微鏡分析により、ASC エキソソーム処理により表皮の層状体が強化され、SC と顆粒層の界面で層状層が形成されることが明らかになりました。皮膚病変のディープRNAシーケンス分析により、ASCエキソソームが皮膚バリア、脂質代謝、細胞周期、および患部の炎症反応に関与する遺伝子の発現を回復することが実証されました。まとめると、我々の結果は、ASC エキソソームがセラミドの新規合成を促進することによって AD における表皮バリア機能を効果的に回復し、その結果、AD 治療における無細胞治療の有望な選択肢となることを示唆しています。
ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞由来のエクソソームは、アトピー性皮膚炎におけるセラミドの新規合成を誘導することにより表皮バリア修復を促進する
ダーマペンとエクソソームの併用でみられる相乗効果
ダーマペンとエクソソームを併用すると、エクソソームの有効成分を肌の深層まで効率的に浸透させることができます。つまり局所的な肌トラブルに対して、エクソソームの持つ「炎症の抑制と修復の促進」「免疫の調整」「肌の再生と質の向上」の3つの効果によって、集中的にアプローチすることができます。
エクソソームのデメリット
ここまで読まれた方は、エクソソームのメリットしか見れていないと思いますので、デメリットについても中立的に記載致します。
エクソソームのデメリットには以下の2つが挙げられます。
- 高価である
- 期待する効果を得るまでには時間を要する
①高価である
エクソソームは特定の細胞から抽出され、高度な技術を用いて精製されるため、その製造コストが高くなります。この製造コストは最終的な治療費に反映されるため、エクソソーム治療は他の治療法に比べて高額になることが多いです。
また、治療の効果を最大限に引き出すためには、何度かの繰り返し治療が必要となることもあり、それがさらなるコスト増につながることがあります。
②期待する効果が得られるまでに時間を要する
エクソソーム治療は、細胞の修復や組織の再生を促進することで効果を発揮します。このような細胞レベルでの効果は即座に目に見える形で現れるわけではありません。したがって、治療後すぐに顕著な改善が見られない場合があります。
また、効果の出方や持続期間は患者の体質や症状の程度、使用するエクソソームの種類や濃度などによって異なるため、個人差が出やすいです。
ダーマペン以外のエクソソーム治療
ダーマペン以外のエクソソーム治療としては、注射や点滴があります。
ここまでダーマペンでエクソソームを肌に作用させる効果について解説してきました。しかし、最初に説明したようにダーマペンの施術を受けようとしている肌がアトピーの活動期にある場合は、ダーマペンの施術そのものができないことがあります。
また、そもそもデリケートな肌にダーマペンで刺激を与えることに心配を感じる人もいるかもしれません。
このような場合は注射や点滴によるエクソソーム治療があります。
アトピーが全身性の疾患であることを考えると、全身にエクソソームを運ぶアプローチをすることで改善をもたらすことが期待できるかと思います。
点滴や注射で行うエクソソーム治療では、ダーマペンと異なり、肌トラブルに直接的に作用させるわけではありません。ですので、肌をキレイにするという点ではダーマペンより時間がかかるかもしれませんが、アトピー体質を改善するという点では注射・点滴の方が改善が期待できる可能性もあります。
どちらの治療にするかは、個々の症状、ニーズ、ライフスタイルに基づいて、医療提供者と相談しながら検討すると良いでしょう。
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